北村大沢楽隊 / 疾風怒濤!!!
(off note)
高円寺の奇所、円盤・田口氏とは、数年に一度、やけに気持ちがリンクすることがあるのです。普段は、やっていることも違えば、考えていることも違う。もちろん彼の音楽に対する情熱とクールネスにはかなわないけれど、他の誰も話題にしていないがふと自分を捉えて離さない音楽があって、田口さんにそれをふってみたら、入り口は違えども同じ部分がやけに気になっていることが多いのです。彼との出会いも、俺が“「うたもの」って言葉で説明しにくいけれど、結局はすきすきスウィッチをもう1度聴きたいだけなんですよね”という言葉からだったし。今から8年ほど前、誰ひとり佐藤幸雄のことなど語るどころか忘れきっているその時期に。
この“北村大沢楽団”もまさにそうでした。大好きなレーベルoff note(このレーベルについても田口さん以外とは話す機会がないよなぁ。最高なんだけれどなぁ)から突如リリースされたこの作品。もちろん、名前も知らなければ、ジャケにはただおっさんが稲田をバックに“ぼー”って写ってるだけ。それもおそろいのスーツを着てね。でも、それだけでもグッとくるヤツはグッとくるじゃないですか。「あぁ、これは田舎町にいる隠れた名ブラスバンドなんだろうな」って感じで。で、軽い気持ちでCDをプレイヤーに乗せた瞬間、正直、躯が凍り付きましたね。いや、なんだろう、この感覚。もうざわざわしてくるようなこの空気。いや、最初に言っておきますが、演奏はとんでもなく下手です。強烈な演奏にビビったとかじゃなくて、でもいわゆる「下手ゆえのピュアネス」とかそんなありきたりなものじゃなくて、とにかく「すごいモノ聴いてもた!」って気持ちでいっぱいになったんですよ。分からない、何か分からないけれど、自分の心の中でグルグルと何かが回る感じ。で、翌日、円盤に遊びに行ったらもちろん置いてあって、田口さんに「あ、これ……」って言いかけた瞬間に「すごいよね!」とユニゾン。彼も同じように、このアルバムに、音楽以外の「何か」を見つけてしまった感じだったのです。
このアルバムについて、ちょっと説明は必要。この北村大沢楽隊、平均年齢70歳超のブラスバンド。関西を中心に活動している“ちんどん通信社”の林さんがたまたま北海道のホテルで見たテレビが話の発端。何やら運動会の徒競走とか、そんなもののバックで音楽がかかるじゃないですか。ちょいと景気のいいやつ。あれをオッさんたちが生演奏しているのをテレビで見たらしい。で、最初は俺と同様、そのへたっぴいな演奏に笑っていたんだけれど、聴けば聴くほど「何か」を感じてしまい、この人たちを探し、出会い、そして録音を果たした、というわけ。
そして記録されたこの音は、今まで頭の中にあったブラスバンドとは全く趣を異にするものでした。実際、リズムはグダグダ、もうそのオヤジの性癖まで分かりそうな勢いで奏でるクラリネットやトランペット等が、てんでバラバラに。次のフレーズを手探りでおっかける輩もいれば、間違ってるのに突っ走る輩もアリ。でも最後にゃひとつ方向に突き進んでいる音楽的にはジンタやチンドンの流れを組むもの、だけれど、この演奏は、運動会や祭りにおいてのみ演奏されるもので、彼ら自身も音楽家という意識すらないのだと思うのです。事務所で福田君と共に聴いた際、「これって、演奏が全部終わった後に飲むビールが一番楽しみなんやろうね」って話したけれど、まさにそんな感じ。大笑いで聴けるし、とてつもなく楽しい。でも、それだけではないのです。心の中でもやもや。
言ってしまえば、日本中“どこにでもある”音楽なのです。これは宮城県の5人組なんだけれど、記録されていないだけで、大分にも福井にも、北海道にも、こんなことを趣味でやってるおっさんたちはいるはずなのです。ただ、それなのになぜこの音源が、自分の心を揺するのか、その理由がなかなか見つけられなかったのです。
そんなとき、FMN Sound factoryのBBSでこれに関する田口さんのコメントに、まさに自分の思っていた「何か」を言葉で説明してもらったような気分になったのです。無断で引用してみます。
「記録メディアの爆発的普及によって、録音物を再確認することが(主にその圧倒的な量によって)、身近なものでさえも困難になってきた現在、再び口伝による音楽の伝承という形に注目しています。オルタナティヴと括られるような音楽であったとしてもこうした伝承の形は個人レベルではそこかしこに小さな形で存在しているはずです。それには演奏する「場」が不可欠です。それは運動会かもしれないし、カラオケボックスかもしれないし、誰かの家かもしれないし、ベアーズやブリッジかもしれないし、円盤かもしれません。(中略)この音楽を「CD」として聞いてしまった「音楽マニア」の僕ですが、これがそういう形で残らなかったとしても、それによって僕が彼らの音楽を実際に耳にすることができなかったとしても、ちっとも不幸ではないと思います。ひなびたスナックの常連客で酔うと物凄いギターを弾くオヤジがいて、そのオヤジのギターを数人の常連客だけがしみじみと聞いている、ということだってたくさんあると思います。実はそれを耳にしているはずなのに「音楽マニア」の耳が実生活の中でそれを「聞いていない」ということの方が多いような気がします。つまり、「北村大沢楽隊のCD」は確かに特別ですが、楽隊の存在を特別としてしまうのはどうか、と少し思うのです」
まさにその通り、と乗っかってしまいましょう(笑)。加え、本来ならば、「宮城県の運動会」にしかありえなかった音が、今ここにこうしてあることに異物感を感じたことが、心をもやもやとさせた理由なんじゃないかなと思うのです。なんちゅうんですか、リビングに便器が置かれている感じというか(いや、それは違うだろ!)。ただ、この異物感は、もしかして初めてレコードを聴いた人と同じ気持ちなんじゃないかな、とさえ感じたりもしています。そして、「CDやレコード」というものがこの世から消え去ったとしてとも(いや、これは極論なんですが……)、音楽が死んだわけではない。音楽は人がいる限り永遠に存在するだろうし、その場所に足を運んで聴けばいいんだと思っている自分の今の気持ちを、このアルバムは再確認させてくれた、ということじゃないか、と。だからこそ、この作品は、今の自分にとって、とても大事なものだったりしているのでしょう。
ちなみに、このアルバム、『MUSIC MAGAZINE』では見事に0点を獲得! また、北村大沢楽隊、現メンバーには北村さんも大沢さんもいません。あしからず。